お気の毒さま、今日から君は俺の妻

「だが母が生んだ俺には、憎悪の目を向けた。成長する俺に祖父を重ね、ことあるごとに当たり散らすようになった。今思えば、もう当時からすでに心のバランスを崩していたんだろう。今、俺たちが住んでる葛城の屋敷にいきなりやってきて、俺に水をかけてきたり……そんなことが数回あって、両親は俺を信頼している従妹夫婦の家に預けたんだ」
「あ……杉江さんの家!」
「――そうだ」


 龍一郎はこくりとうなずいた。

 話を聞いて、点と点、ちいさな違和感が、澄花の中で繋がっていく。


「本当に、祖母が見ていたのは祖父だけだった。そしてそれは一途な思いを通り越して、怨念に近いものだったんだろうな」


 龍一郎は澄花の裸の肩を丸くなでながら、目を伏せた。


「俺が関わらなければ、周囲にはずっと普通に見えたんだ。取締役や株主の要望もあって、社長、会長として一線で働いていたが、数年前にがんが見つかって余命宣告を受け、引退した。それからまるでつきものが落ちたみたいに静かに暮らしていたんだが……月に一・二回、あんなふうになって、祖父を探し回る。気持ちは娘時代に戻っているんだろう。そのたびに俺が行って、祖父のふりをする」


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