お気の毒さま、今日から君は俺の妻
龍一郎との食事は正直言って、食べた気がしなかった。
(えっと……舌平目のリソレ……なんとかのコンディマンテ……だったっけ)
決して料理が美味しくないはずはないのだが、緊張がどうしても先にくる。せっかくの高級食材の味もよくわからない。
「奥様は辛口のワインがお好みのようですね」
「あ、はい……とても美味しいです」
奥様と呼ばれた澄花は一瞬、どきりとしたが、微笑んで、グラスにワインをついでもらう。
ソムリエが勧めてくれるワインは本当に美味しかった。それは嘘ではない。なので次から次にすいすいと飲んでしまった。
(今日こそザルでよかったわ……とりあえず間はもってるもの……)
龍一郎は基本的に寡黙な人だが、まったく話さないわけではない。
「あの……今日から、葛城さんのことを、名前で呼んでもいいでしょうか」
結婚式まで彼と過ごした日は、両手で足りる。
そのほとんどは全て結婚や丸山夫妻の工場のための事務仕事であって、こんな風に一緒に食事をとるのも初めての事だった。
その昔、親が決めた相手と結婚していたような時代なら、結婚式の日に初めて顔を合わせるというのも不思議なことではなかっただろうが、今は現代だ。さすがに圧倒的情報不足なのは否めない。