お見合い愛執婚~俺様御曹司に甘くとらわれました~
「今日ね、担当するはずのリップのデザインを外されたの」
うちの売れ筋商品で、若い女性から恋が叶うリップとして人気があるものだ。
それを担当できるのはやはりデザイナーとしても評価されたということだ。
「そのリップのシリーズは尊敬する先輩が辞める時に次は私がいいって上に推してくれていたの。デザインも問題ないって言われてたんだけど、やっぱり外された。新しいデザイナーは……」
「あの女か」
私は静かに頷いた。
「別にね、彼女に才能がないとか言わない。ちゃんと勉強して努力しているのも知ってる。だから、イメージチェンジで新しい担当に変えることも珍しいことじゃない。でも、ほぼ私が担当するって決まっていたのに、それがここに来て大幅変更するって上が決めたらしくて」
このタイミングは正直おかしい。
よほど、何か不都合が出なければデザインを変更する理由ではない。
課長は言葉を濁したままで明確には言わなかった。ただ「すまない」とだけ一言呟いて目を伏せた。
それが猜疑心を煽る。
席に戻るとありさがこちらにやってきた。
「藤野さん、リップのデザイン私が担当することになりました」
「ええ、今聞いた」
わざとらしい。今まさに課長と話していたことくらいわかるだろうに。
わざわざ私から何か言わせたいのかと気が立っているからつい素っ気ない態度が出てしまう。
ありさはわざわざ腰を折って私の顔を覗き込んでくる。余裕の笑み。過去に達彦と婚約発表してきた時もこの顔だった。私は思わず顔を背けて俯いた。
「それにあたって、色々お聞きするかもしれないんですけど、よろしくお願いしますね」
何を心にもないことを。
私のサポートなんて死んでも嫌がるくせに。
そう動きそうになる口をぎゅっと引き結んだ。
「あ、でも、もうそれどころじゃないですよね」
「何が?」
ありさが意図することがわからず苛立って見上げると、彼女の笑みがもっと濃く刻まれる。
「寿退社されるなら、もう仕事どころじゃないですよねー」
ブチッと頭の線が切れる音がした。
気づいたら椅子から立ち上がって右手を振り上げていた。