お見合い愛執婚~俺様御曹司に甘くとらわれました~
「あー美味い。酒飲みたいけど、我慢だ」
「代行呼べば?」
「いや、やめとく。明日も仕事あるしな」
智哉は厨房に面したカウンターに日本酒の瓶が何種類か並んであるのを眺めた。
夜は定食の他にお酒も出していて、それ用につまみもサイドメニューに載せてある。
「あの酒、飲みやすいよ。うちの会社のだけど」
彼が指さした一本の日本酒。流れるような書体で『撫子桜』と柔らかく書かれている。
「『撫子桜』は日本酒を敬遠している女性にも飲んで欲しくて作ったんだ。甘めでフルーティだからきっと酒に弱い桜子も好きだと思う」
「じゃあ、ちょっとだけ飲んでみる」
「おう。あ、すみません、『撫子桜』一杯ください!」
智哉が厨房で作業するおじさんに注文してくれる。
おじさんは不愛想にこちらを一瞥するとグラスと『撫子桜』を手にしてやってくる。
テーブルにグラスを置いて、そこに『撫子桜』をなみなみと注いで無言で去っていく。
昼間もそうだが、基本この店の亭主は愛想がない。
ただ、普段から具を多く盛ってくれたりだとかサービスはよくしてくれるから根は優しいと思う。
零れないようにゆっくりとグラスを持ち上げて口をつける。
少し口に含んだだけで、広がる甘さ。
白ワインみたいに果実を思わせるほどフルーティで、喉を通った後は少しカッと顔が熱くなるけど後味もすっきりしていて飲みやすい。