一途な社長の溺愛シンデレラ
都会の洗礼を見事に受けた出来事で、思い出すとさすがの私もきまりが悪い。
「あの日は遅延と重なって、いつもより混んでたんだよ。災難だったな」
もう4年も前のことを昨日のことのように話しながら、社長は私を護衛するみたいにぴたりと寄り添う。
「あれ以来、この駅使ってないだろ?」
「……使ってる。帰りはいつも普通に乗ってる」
私はこの駅がトラウマだから避けているのではなくて、朝の通勤ラッシュを避けているだけだ。
そう言ったのに、社長は「あれ、そうだったか?」ととぼけた顔で笑うだけで、私の腰に回した手を離そうとしなかった。
電車を乗り継いでたどりついた太陽石鹸株式会社の東京オフィスは、碁盤の目の構造になっている下町の一角にあった。
本社は長野にあるけれど、驚いたことにこのプレゼンテーションのために社長や役員たちがわざわざこの東京オフィスまで足を運んだらしい。
といっても、半分は東京観光のためだろうと、うちの社長はこっそり言っていた。
その社長のすこし後ろに立ったまま、私は簡単に自己紹介をするいかめしいスーツの集団をひとりずつ頭にインプットする。