一途な社長の溺愛シンデレラ
「森林の香りがもっとも強く感じられるのはいつでしょうか。緑が生い茂った夏?それとも雨の日の朝?もちろん、それらの時季もいいですが、想像してみてください。すべてが寝静まった、夜の森の風景を」
太陽石鹸の面々が食い入るように社長を見ている。
向き合う人々をまるごと飲み込むように惹きつけながら、社長の目は一点だけに向いていた。
役員たちが席を占める、その真ん中に。
「静まり返った森のなかで、虫や動物たちが動き出す。人の手が入ってしまった森も、夜になれば原生の姿に戻ります。その一方で、山頂からは人々の営みの灯がきらめく大地を見渡すことができる。私たちがイメージしたのは、そういった夜の森の、神聖な時間です」
熱のこもった社長のプレゼンに、スーツの一団は言葉を失っている。
そのなかでひとりだけ、納得したように何度も頷いている男性がいることに私は気付いた。
スライドを見てうっとりと目を細め、社長の説明にじっくり耳を傾けている、気難しそうな顔の彼はたしか――。