今宵、エリート将校とかりそめの契りを
自室に運ばれた総士は、忠臣と使用人の手でベッドに横たえられた。
程なくして往診に現れた名取家のかかりつけ医が、すぐに総士の傷を診て処置を始める。
忠臣は使用人を下がらせると、自分はベッドの傍らに立ち、手当を受ける総士に襲われた状況の聞き取りを始めた。


「相手は男一人……賊ではないようですね。なにか盗られたものはありますか?」


総士が襲撃されるという深刻な事態に、忠臣は早口だ。
いつも以上にキビキビした口調にも、どこか張り詰めた空気が滲み出ている。


琴は寝室のドアの横に立ち尽くしていた。
胸の前で祈るように組み合わせた両手が、意志に反してカタカタと震える。
血の気の失せた蒼白な顔は、激しい不安で強張っている。
しかし、手当てを受ける総士から視線を逸らすことなく、目を凝らしてジッと見つめていた。


忠臣の質問に、総士は黙って首を振った。
それを受けて、忠臣は次を畳みかける。


「男に見覚えは? なにか言われましたか?」


総士はわずかに掠れた声で返事をした。


「突然門柱の陰から飛び出してきて、『名取総士中尉殿、覚悟!』と叫んだ。振り返る間も無く、後ろから斬りつけられたんだ。声に聞き覚えはないし、闇に紛れて顔もわからなかった」
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