今宵、エリート将校とかりそめの契りを
総士の返事に何度か頷いてみせてから、忠臣は顎を摩って思案顔をする。


総士と忠臣に交互に視線を向けながら、琴も必死に頭を働かせた。
彼の証言を聞いた琴の不安は、煽られ増幅していた。


(賊……夜盗? いいえ、物盗りの類じゃない。襲われたのは家の前だもの。確実に総士さんを狙ったはず)


同じ情報を得た忠臣が、頭の中でどんな思考を巡らせているか気になり、琴はその横顔を盗み見た。


忠臣はいつも以上に深く眉間の皺を刻み、難しく険しい表情のまま。
先ほど一瞬とは言え、彼が階下で琴に向けた疑心に満ちた瞳がすべて物語っているようで、彼女の想像も嫌な方向に進路を定めていってしまう。


(門柱の陰から飛び出した、って……)


琴の脳裏にリアルに浮かび上がる光景。
そこに隠れるように佇んでいた正一と、門の柵越しに話をしたのは、まだつい昨日のことだ。


昨日琴は、彼が提案した総士の告発に、怯んで同意できなかった。
そんな琴の態度は、彼女を嫁にと望む正一にとって、失望でしかなかっただろう。


(まさかそれで、総士さんを直接……?)


胸に過った恐ろしい想像に、琴は思わず身震いした。
正一への疑惑が深まるのを拒むように、大きく頭を振って嫌な思考を吹き飛ばそうとした。
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