今宵、エリート将校とかりそめの契りを
その夜――。
続き間のドア越しに、女中から湯を張った桶を受け取り、琴は総士の寝室に向かった。
薄く開いたドアからそっと中を窺い、身を滑らせるようにして室内に入る。


夜着の肩を落とし、引き締まった背と胸元を露わにした総士が、広いベッドの端に座っている。
肩から上腕にかけて巻いていた包帯は外してある。
サイドテーブルの上のライトが、彼の肌を暖色に浮かび上がらせている。
そのせいか、まだ塞がり切っていない傷跡が、この距離なら生々しく感じられない。


女学校の教科書で見た、欧羅巴の彫刻のようだ、と琴は思った。
逞しい総士の身体は見慣れずドキッとするのに見惚れてしまい、琴は戸口で立ち尽くしてしまった。


「琴?」


顔を伏せていた総士が、斜めの角度から訝しそうな視線を向けてくる。
天井の照明は落ちていて、仄暗い寝室は、どこかしっとりとした静かな雰囲気がある。
上半身裸の総士からは男の色香が濃厚に漂っていて、上目遣いの視線は凶悪なほど魅惑的だ。
琴の胸は、嫌でもドキンと跳ね上がってしまう。


「ご、ごめんなさい」


慌てて取り繕い、パタパタとスリッパを鳴らしてベッドサイドに近寄る。


「すぐ済ませますね」

「ああ、頼む」
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