今宵、エリート将校とかりそめの契りを
総士の返事を聞きながら、琴は持っていた桶をサイドテーブルの上に置いた。
湯の中に沈んだ手拭いを取り、固く絞って総士の身体を拭き始める。
総士は長い睫毛を伏せ、琴に協力するように軽く身を動かしてくれた。


最後に、肩から繋がる一本の痛々しい傷の周りに、慎重に手拭いを当てる。
気をつけたつもりだが傷に沁みてしまったのか、彼が「うっ」と小さく呻き、肩をピクリと震わせた。


「! すみません。沁みましたか?」


琴は反射的に手拭いを引っ込め、総士の反応をそっと窺った。
彼はフッと目を開け、「いや」と首を横に振る。


「大丈夫だ。続けてくれ」


琴はホッと小さな息を吐き、さらに慎重に手拭いを当てた。
身体を拭き終えると、今度は新しい包帯を手に取る。


肩幅が広く、鍛え抜かれた総士の身体に、包帯が緩まないようにきつく巻くのは、小柄な琴にはなかなか至難の業だ。
すべて終えた時、琴は額にうっすらと汗を滲ませていた。


「やっぱり……傷は塞がってません。今日、ちゃんとゆっくりできてたら……」


額の汗を手の甲で拭いながら伝えると、総士は着物に袖を通して軽く肩を竦めた。


「お前のせいじゃない」


穏やかに否定されてしまい、琴は自分の爪先に目線を落とす。
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