今宵、エリート将校とかりそめの契りを
しかし総士は涼しい顔で、琴の手を引いた。
誘われるようにして、彼の隣に腰を下ろす。


「もう……今日のような勝手はしません」


殊勝にうなだれる琴を横目で見遣り、総士はわずかに目を細めた。


「ああ。そうしてもらえると、助かる」


彼はクスッと笑うと、指先で琴の横顔にかかる髪をさらりと揺らした。
横から覗き込んでくる総士に、琴はそっと目を上げる。


「……琴」


総士がなにか憂うように顔を歪め、琴の名を呼ぶ。


「はい」

「忠臣の報告の件……。聞いて平気か?」


指先で掬った髪を琴の耳にかけ、総士が心を探ってくる。
耳をくすぐる指に、琴は一瞬ピクッと肩を竦ませた。
わずかに逡巡して間を置いてから、「はい」と頷く。


「私……正一さんを信じます」


返した返事に後押しされて、琴はもう一度大きく首を縦に振った。
琴の瞳に力が宿っているのを見て、総士はホッと息をつく。


「お前なら、そう言うと思っていた」


彼の反応を確認して、琴はニコッと微笑む。


「総士さん。私、戦場のことは、なにも知りません」


琴は膝の上に両手を置き、そっと組み合わせた。
総士は黙って耳を傾けてくれている。
< 189 / 202 >

この作品をシェア

pagetop