今宵、エリート将校とかりそめの契りを
帰り際、琴は佐和子から正一のことを聞いた。


『兄様、軍部に除隊願いを出したわ。家を継いで、人が人生の晴れの日に身に着ける着物を、自分の手で作りたいって』


そう言った佐和子は、どこか寂しげだった。
琴もズキッと痛む胸を、無意識に押さえた。


しかし、今身に纏っている白無垢と赤の打掛が、その言葉の証。
琴の婚礼衣装には、正一も針を入れてくれたと聞いた。


名取の親戚筋ばかりの祝い客も、琴の衣装に「ほおっ」と感嘆の声を漏らした。
生地の質や絵柄の豪華さ、それだけではない。
仕立ては完璧で申し分なく、琴の身体にぴったり合った衣装は、彼女の可憐さと生来の気品を際立たせる物だった。


人生の門出を見守ってくれる人たちの中に良く知る人間はいないが、失った家族、友人に包まれているようで、琴は終始心強く思っていた。
式の間ずっと、笑顔を絶やさずにいられた。


夫婦の杯を交わし合った後、隣に立つ、五つ紋の羽織袴姿の総士が、「琴」と小さく名前を呼んだ。
そっと顔を上げると、彼が横目で見下ろしてくる。


「それで、どうする?」

「え?」


質問の意味がわからず、琴は即座にそう問い返した。
それを見て、総士はどこか面白そうに口角を上げる。
< 199 / 202 >

この作品をシェア

pagetop