今宵、エリート将校とかりそめの契りを
涙を浮かべた目元に手の甲を当てる佐和子を、琴は反射的に「しっ」と制した。
「佐和ちゃん、それはここで言っちゃダメ!」
短く鋭い琴の声に、佐和子もハッと息をのんだ。
彼女が口を噤んだのを見て、琴はそっと背後に視線を向ける。
庭園に人気がないのを確認して、ホッと胸を撫で下ろした。
「大丈夫。正一(しょういち)さんのせいじゃない。だから、心配しないでって伝えて」
琴は背後に注意を払ったまま、早口でそう言い切った。
それを聞いて、佐和子もグッと声をのみ、黙って何度か頷く。
佐和子の兄、正一は、顕清の戦友だ。
彼はつい三週間ほど前に戦地から帰還したばかりで、琴の両親の死を聞き、心痛な面持ちで訪ねてきてくれた。
その時、佐和子が口走った通り、琴に顕清の戦死について情報を与えてくれたのだ。
『琴、俺知ってるんだ。顕清の部隊が全軍壊滅なんて憂き目に遭ったのは、敵軍の地雷原の情報を知っていながら、副官の名取中尉が経路変更を指示し忘れたせいだ』
悔し気に顔を歪めた正一からそう聞いた時、琴は一瞬呼吸ができなくなり、過呼吸に陥るほどの衝撃を受けた。
兄の戦死公報では、遠く欧羅巴の戦地に散ったことしか記されていなかった。
地雷原で全軍壊滅……それがどれほどの惨状なのか。
「佐和ちゃん、それはここで言っちゃダメ!」
短く鋭い琴の声に、佐和子もハッと息をのんだ。
彼女が口を噤んだのを見て、琴はそっと背後に視線を向ける。
庭園に人気がないのを確認して、ホッと胸を撫で下ろした。
「大丈夫。正一(しょういち)さんのせいじゃない。だから、心配しないでって伝えて」
琴は背後に注意を払ったまま、早口でそう言い切った。
それを聞いて、佐和子もグッと声をのみ、黙って何度か頷く。
佐和子の兄、正一は、顕清の戦友だ。
彼はつい三週間ほど前に戦地から帰還したばかりで、琴の両親の死を聞き、心痛な面持ちで訪ねてきてくれた。
その時、佐和子が口走った通り、琴に顕清の戦死について情報を与えてくれたのだ。
『琴、俺知ってるんだ。顕清の部隊が全軍壊滅なんて憂き目に遭ったのは、敵軍の地雷原の情報を知っていながら、副官の名取中尉が経路変更を指示し忘れたせいだ』
悔し気に顔を歪めた正一からそう聞いた時、琴は一瞬呼吸ができなくなり、過呼吸に陥るほどの衝撃を受けた。
兄の戦死公報では、遠く欧羅巴の戦地に散ったことしか記されていなかった。
地雷原で全軍壊滅……それがどれほどの惨状なのか。