今宵、エリート将校とかりそめの契りを
恐ろし過ぎて、もちろん琴には想像すらできない。
『名取中尉の指導力不足は誰が見ても明らかだ。けど、中尉はその事実を総司令部に報告せず隠匿した。自分の部下にも、口止めしたって聞いた。もちろん、上層部に知れれば、降格処分になるからだよ』
すべては驕り高ぶった一将校の、軍人としての栄華の為―—。
なんて卑怯で非道な男だろうと思った。
正一からその真実を聞いた時の、おぞましいほどの憎悪で心が煮えくり返る感覚を、琴は忘れることができない。
そして今、それが強く蘇り、琴はほんの少し前に自信を失いかけた自分を、叱咤することができた。
(そうよ。私、なんの為にここにいるの。あの人に好きなように手籠めにされる為じゃない……!)
ギュッと唇を噛む琴に、佐和子が「ねえ」と呼びかけていた。
「大丈夫よ、琴。すぐに助けてあげる。うちの父様が軍の上層部にかけ合って、琴を解放するように言ってくれるから」
佐和子の家は、江戸時代から続く老舗の呉服商だ。
日本陸軍の幹部軍人も、顧客として名を連ねていて、上層部に顔が利く。
確かに彼女の父が言ってくれれば、琴はここから逃げ出すことができるかもしれない。
『名取中尉の指導力不足は誰が見ても明らかだ。けど、中尉はその事実を総司令部に報告せず隠匿した。自分の部下にも、口止めしたって聞いた。もちろん、上層部に知れれば、降格処分になるからだよ』
すべては驕り高ぶった一将校の、軍人としての栄華の為―—。
なんて卑怯で非道な男だろうと思った。
正一からその真実を聞いた時の、おぞましいほどの憎悪で心が煮えくり返る感覚を、琴は忘れることができない。
そして今、それが強く蘇り、琴はほんの少し前に自信を失いかけた自分を、叱咤することができた。
(そうよ。私、なんの為にここにいるの。あの人に好きなように手籠めにされる為じゃない……!)
ギュッと唇を噛む琴に、佐和子が「ねえ」と呼びかけていた。
「大丈夫よ、琴。すぐに助けてあげる。うちの父様が軍の上層部にかけ合って、琴を解放するように言ってくれるから」
佐和子の家は、江戸時代から続く老舗の呉服商だ。
日本陸軍の幹部軍人も、顧客として名を連ねていて、上層部に顔が利く。
確かに彼女の父が言ってくれれば、琴はここから逃げ出すことができるかもしれない。