お見合い相手は無礼で性悪?



『逃げてなんか・・・ないわ』


じわり、じわりと攻めてくるあいつに

いつの間にか背中が壁に触れ
エレベーターの隅に追い詰められたことを知った


『ちょ、っと、離れて』


こんなに間近で男の人と会話したこともない私からすれば
全身の毛が逆立つようなシチュエーション


そんな私の気分なんて関係ない風の彼は

私の頭の上に手を置くと首を傾げて顔を覗き込んだ


『婚約解消なんて認めないからな』


聞こえた声はこれまでの彼からは想像できないくらい低くて
視線を外せないまま戸惑う私の
全開のオデコにチュッと音を立ててキスをした


・・・っ!なんてこと!


心の中の声は唇を出ることはなく


言い逃げするように“じゃあ”と片手をあげて
エレベーターから降りた彼の背中が見えなくなると

力の抜けた脚は踏ん張りがきかず、床に座り込んでしまった


・・・・・・っ


混乱したままの私を乗せたまま
エレベーターは下降を始めた

・・・立たなきゃ

思えば思うほど脚には力が入らない

そうしているうちに扉が開いた


『愛華さん!だ、大丈夫ですか?』


目に飛び込んできたのは驚いた顔の濱田トレーナーで

隅で座り込んでいる私に近づくと
いとも簡単に抱き上げ


そのまま医務室まで運ばれた私はベッドに寝かされた
 

『貧血かなぁ?何かあった?』


医務室担当の三好さんは
原因を探そうと質問してくるけれど


あいつがオデコにキスしたから
腰が抜けたとも言えず


『なんでだろう』


曖昧に誤魔化しながらタオルケットで顔を隠した

視界が遮られると思い出すのはひとつで


スローモーションのように蘇るキスに
胸がドキドキして身体中に熱が散らばる


・・・婚約解消なんて認めないって


なんで、オデコに・・

あいつの唇が触れたオデコに
そっと手を伸ばす

あいつ・・・

考えれば考える程
馬鹿にしてるとしか思えなくて

でも、不覚にも初めての体験に
身体中から力が抜け出た気分


『大丈夫?熱があるみたいね、真っ赤だもん』


少しタオルケットを捲った三好さんと目が合った瞬間


『愛華、愛華が倒れたって!どこだ!』


父が大きな声とともに飛び込んできた



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