無慈悲な部長に甘く求愛されてます
 


 ふと気づくと、フロアから人の気配が消えていた。

「あれ」

 ついさっきまで残業組がいたのに、と思いながら時計を見ると、午後十時を回ったところだ。

 ふいに力が抜けて、私は仰け反るように椅子にもたれた。

 悲鳴をあげるように背もたれがきしむ。

「うう、つかれたあ……」

 伸びをして肩をまわすと、体がごりりと不穏な音を立てる。

 一心不乱にキーを打っていたせいで腕の筋も張っていた。

「甘いものが食べたい……」

 空腹のピークはとっくに超えて食事への欲求は消えたけれど、口が糖分を欲している。

 できればフルーヴの濃厚なクリームがいいと、私に訴えかけてくる。 

 とはいえ、お店はとっくに閉まっているから、帰りに買うこともできない。

 そもそも、私は今日、家に帰れるのだろうか。

 まだ半分残っている書類の束を見つめて、ため息がこぼれた。


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