無慈悲な部長に甘く求愛されてます


 午後五時、終業のチャイムが鳴ったと同時にとなりの島の冴島(さえじま)部長が席を立った。

 慌ただしく帰っていくスーツの背中を、営業部の面々がぽかんとした顔で見送っている。

「あれ、部長今日帰るの早くないか」
「もしかして、彼女とデート?」
「まさか!あの鬼部長に彼女とか、想像できないよ」
「家族に急病人でも出たんじゃないの」

 営業部の島で起こったどよめきを聞くともなしに聞きながら、私はカップケーキにフォークを入れた。

 チョコレートマフィンの土台にクッキーとプレッツェルで形作ったトナカイのケーキは、食べるにはもったいないくらい凝っていてかわいい。

 でも午後三時に配られてから十分すぎるほど眺めたし、カメラにもこっそり収めたし、ほかの人たち、とくに男性社員なんて配られたそばから胃の中に収めていたわけだから、あまりもったいぶって置いておいて、「小松さんて貧乏性なんだな」なんて思われても困るので。

 トナカイちゃん、いただきます。

 心の中でつぶやいて、鼻をかたどっていたクッキーにかぶりついた。
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