無慈悲な部長に甘く求愛されてます


 がつんとした甘みが、一日の疲れをため込んだ体にじんわり染みわたっていく。

 うん、おいしい。……でも、ちょっとだけ物足りない。

 クリスマスイヴだからと社長が差し入れしてくれたケーキに文句をつけるわけじゃないけれど、私は甘いものにはちょっとだけうるさい。

 思い出すと今すぐにでも食べたくなる、家の近所にあるケーキ屋の濃厚なクリームの味を思い出していると、後ろから声をかけられた。

「小松さん、これ再送してくれる?」

 同じ経営管理部の松田先輩が、リストを私に差し出している。

「この赤チェックの会社全部なんだけど。このあいだ送ったアンケートの調査項目が間違っててさ。定時後に悪いんだけど」

「いえ、承知しました」

「悪いね」と言って帰り支度をはじめる松田先輩は三十五歳、共働きの奥さんと小さな男の子ふたりをもつお父さんだ。

 きっと今日はクリスマスケーキを買って帰ると約束しているに違いない。

 私もあそこのケーキを買って帰ろうかな、と一瞬考えてから首を振った。
< 4 / 180 >

この作品をシェア

pagetop