無慈悲な部長に甘く求愛されてます


 だめだ。

 帰るころにはとっくに閉店時間を過ぎている。

 絶賛幸せ太り中の松田先輩の背中を微笑ましい気持ちで見送ってから、私は腕時計に目をやった。

 それからリストの内容をざっと確かめてパソコン画面と向き合う。

 よし、午後七時までに終わらせれば約束に間に合う。

 食べかけのトナカイケーキを大急ぎで口の中に放り込み、パソコンのキーを叩いた。


 アンケート書類を整えて二十を超えるグループ企業に郵送の手配をし、それぞれの経営企画担当者あてにメールを送付し終わったときには、目標時刻を五分オーバーしていた。

 あわててパソコンの電源を落とし、給湯室にマグカップを洗いに行く。

 フロアにはまだ半数近い社員が残っている。

 世の中がクリスマスに沸き立っていても、会社には関係ない。

 そう思うと、社長の差し入れはやっぱりあたたかい気遣いだったのだなと、ありがたく受け取れた。

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