無慈悲な部長に甘く求愛されてます

「別の店でもかまわない。ほかに好きなところがあれば言ってくれ」

「……へ?」

 店の前で立ちすくむ私を見下ろして、冴島部長は「ああ」と気がついたように笑った。

「お詫びだよ。君のコートを汚してしまっただろ」

「いえ、だってそれは……」

 クリスマスの夜にケーキをかぶった私のコートは、部長がクリーニングに出してくれて、良美さんを通して手元に戻ってきていた。

 あの仕上がり具合から考えると、おそらくクリーニングの料金だけで一万円以上かかっているはずだ。

 だってあのコートは何年も前に買ったものでだいぶ傷んでいたはずなのに、戻ってきたものはリペア加工でも施されたみたいにぴかぴかになっていた。

 そういえば、あれは今目の前できらびやかなオーラを放っているここのブランドのものだったなと思い出す。

 私は部長に向き直り、はっきり口にした。

「かえって申し訳ないので、いりません」

 断ると、部長は目をつむって「そうか」とつぶやいた。

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