無慈悲な部長に甘く求愛されてます


 鬼上司なんてとんでもない。

 冴島賢人は、相手の気持ちを深く考える、とてもとても優しい人だ。


「本当に気にしないでください。私、あのときちょっと嬉しかったんです」

 冴島部長が切れ長の目をぱちくりとまたたいた。

 この人の気持ちを、軽くしてあげたい。

 突き上げるような衝動がこみ上げて、私は自分で戸惑った。

「あの日は、仕事をしてるときからずっとフルーヴのケーキのことを考えてて」

 思い出しながら、私はすこし笑ってしまう。

「食べたくて仕方ないのに閉店してるだろうなって諦めてたから、ケーキをかぶって、大好きな匂いに包まれて、むしろ幸せだったっていうか……」


 しばらく沈黙が漂ったと思ったら、冴島さんが「ふはっ」と噴き出した。

「なんだそれ」

 端正な顔全体に、笑みが広がる。

 肩を揺らしながら、冴島さんはくしゃくしゃの顔で私を見る。

「あんな状態で、そんなふうに考えてるとは思わなかった」

 どきりとした。

 今まで見たことのない冴島さんの少年のような笑い方に、胸が高鳴って仕方ない。
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