無慈悲な部長に甘く求愛されてます

「そんな、謝らないでください。本当に大丈夫でしたから」

「いや、女性の顔にケーキをぶつけるなんて、本当に最低なことをしたと思う」

 わざとやったわけでもないのに、冴島さんは年下の私に「悪かった」と言って頭を下げる。

 私はあらためて驚いた。

 私が自分で思っていた以上に、冴島さんはずっとあの日のことを気に病んでいたのだ。

 会社では見ることのできない彼のつむじを見て、私は思い出す。


 あのときも、赤い衣装を着た部長がソファに座る私に深く頭を下げていた。

 その姿を見ながら、サンタクロースの衣装は、きっと部長が着たくて着たものではないのだろうなと私は思っていたのだ。

 きっと良美さんか誰かに、無理やり着せられたのだろうなと。

 でも、きっとそうじゃなかった。

 今ならわかる。

 彼は、お兄さん夫婦のケーキ屋を盛り上げるために、もしかしたら甥っ子の大河くんを喜ばせるために、自ら選んであの格好をしたのだ。

 定時で会社を飛び出すくらいに、一生懸命に。


 そう思ったとたん、ぎゅっと胸が締まった。

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