悲劇のヒロインなんかじゃない。
エレベーターがきたので、私は箱に乗り込む。


「樋口さん、また協力してもらえるよう俺たちしっかり足場固めますから!」



私は何もいわず『閉』のボタンを押した。


ビルからでると私は父に電話をした。


「もしもしお父様?えぇ、婚約はなかったことに……えぇ、ビジネス協力も白紙に。えぇ、…青嶋社長も覚悟の上だと。…だから、役員の皆さんの意見も聞かないと…えぇ、わかりました。帰ったら役員会議を開くように…はい。では…」


真っ直ぐ帰る気にはなれない。私は少し歩くことにした。



父も、青嶋さんも、佐知さんも、青嶋さんの会社の副社長さんも、


みんな気になるのはビジネスのこと。


私の気持ちなど誰も気にしていない。


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