恩返しは溺甘同居で!?~ハプニングにご注意を!!

 いつのまに、この香りに落ち着きを覚えるようになったのだろうか。もう随分と馴染んだシトラスの香りに包まれている。

 「杏奈、泣かないで。俺を見て。」

 弱々しい声でそう乞われて、涙に濡れたままの顔を両手から少し上げると、困ったような、戸惑っているよな、そんな修平さんの瞳が私を見下ろしていた。
 
 私の体を緩く囲ったその腕を、一つだけ解いて、その手で私の涙の跡を拭う。

 「俺のこと、嫌いになったんじゃないの?」

 悲しそうな瞳でそう問われて、私は勢いよく大きく頭を左右に振った。

 「杏奈こと、泣かせたのに?」

 今度は小さく横に振る。

 「もう一度、聞かせて、杏奈。」

 彼の瞳が懇願するように揺れる。

 「お願い、杏奈。」

 「すき、です。修平さんのことが好き。」

 今度こそ、彼の目を見て、しっかりと気持ちを口にした。

< 194 / 283 >

この作品をシェア

pagetop