溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~
「あのっ、八神さんですよね?」
「……そうですが」
「っ!!」
雨で濡れた髪が視界を遮る。
だけど、番傘の中で振り返った彼の姿に息を飲んだ。
生地に縞が入った無地の着物姿の彼は、綺麗で色気もあって……。
「なにかご用ですか?」
「私、先日の花火大会の時に助けていただいた……」
「あぁ、Stationiaの」
「はい! 三藤 咲です」
私のことなどすっかり忘れていたんだろう。
しかも、社名で覚えられていたようで、少なからずショックを受けた。
「それで、この豪雨の中、なにかご用ですか?」
「……お渡しした連絡先も、あの夜の出来事も忘れてください。私、八神さんに遊ばれたなんて思いたくないんです!」
一気にまくし立てて、言いたいことを告げる。
だけど、彼は顔色ひとつ変えずに見下ろしてくるばかりだ。