溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~
「そんなことをわざわざ言うために、私を引き留めたのですか?」
「えっ!?」
この前は、とても優しい瞳で私を見つめてくれたのに。
「酔っ払いに絡まれ続けるのと、私に助けられてあの部屋で過ごすのと、どっちがよかったとお思いですか?」
「そ、それは……」
彼に助けられたことは感謝している。
あのままだったら、本当に浴衣を脱がされていたかもしれない。
社の垣根を越え、世間的にも話題になってもおかしくなかった。
「それに、あの大量生産の安浴衣の弁償なら、もう済んだはずですが」
「弁償って……私はただ、八神さんにされたことが」
「……この傘を使っていただいて結構ですから、二度と私の前に現れないでいただきたい」
そう言い捨てると、彼は私に番傘を押し付け、ちょうど乗客を降ろしたタクシーに乗り込み、去ってしまった。