溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~

 奈緒美が言っていた通りだ。

 八神さんは最低最悪のオオカミ御曹司。
 私にしたことが、まるで良い事をしたかのように語られるなんてたまったもんじゃない。

 あの時は、私もお酒の勢いと雰囲気と、彼への想いに駆られてしまったから、一方的に責めるわけにはいかないと思っていたけれど、少しくらいは謝ってくれてもいいのに。

 それに、一線を越えた相手の名前を覚えていない様子も、彼の軽薄な人柄を垣間見るようだった。


 渡された番傘は、私には少し大きい。
 ひと目で男性用と分かるから、差しているのもちょっと恥ずかしいけれど……。


「……また助けられちゃったな」

 八神さんへの想いを早く消したいのに、ぎゅっと握った竹の柄に彼の温もりを感じたら、胸の奥が小さく疼いた。


 最低最悪だって分かってるのに。
 どうして胸の奥は、コントロールが効かないんだろう。


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