溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~

 だけど、ただひとつ、どうしても手に入らないものがある。


 恋だ。

 好きな人ができて、仲良くなって。
 片想いで終わったとしても、いつか振り返ってもつらくない、いい思い出が詰まっていて。
 だけど、私がどんなに手を伸ばしても、理想の恋には届かない。

 それどころか、ずっと想い焦がれてきた彼に拒絶された事実は、切ない傷を残した。

 私だってあなたなんて忘れてやるって強がってみたけれど、無意味だ。
 八神さんが最低な人だと知っても、記憶から消えてくれないんだから。


 花火大会で助けてくれた誠実な表情も、優しい眼差しも。
 接待よりも私を案じてくれた声色も。

 軽々抱き上げてくれた逞しさも――。


 失恋なんて、時間が解決してくれるっていうけど、いつになったら前を向けるんだろう。
 忘れられないまま、嫌いになるのがこんなに難しいなんて知らなかった。


 誰にも言えない失恋は、誰も知らない涙になった。


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