溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~


 ひたすら仕事に没頭して、恋愛から目を逸らすこと約一カ月。

 奈緒美は彼と相談をした結果、寿退社を選んだ。
 仕事を続けることも考えたようだけど、忙しい彼のことを支えたいと以前から思っていて、営業だと海外転勤もありうるから、遅かれ早かれ退職すると決めていたそうだ。

 日々、引継ぎやらなんやらで忙しくしているけれど、ずっと仲の良かった彼女がいなくなってしまうのは寂しい。
 なによりも、色々な相談事や他愛ない話、私の文具の話まで聞いてくれる人は、他にいない。



「三藤さん、午後の予定は変わりないですね?」
「はい、大丈夫です」

 そして私は――。十月半ば、ごく普通の水曜に、総務部長から呼びだしを受けている。

 入社して初めてのことに、冷や汗が背を伝う。
 怒られるような失態でもあっただろうか。もしかして、花火大会の時の一件が周り回って上層部の耳に入ったのだとしたら、面倒なことになりそうで頭が痛くなってきた。


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