溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~

 翌朝、憂鬱な気分で目が覚めた。
 夢の中でもうなされていた記憶が薄らと残っていて、ため息が出る。


 昨日、八神さんにガツンと言ってやろうと意気込みはしたものの、元々争いごとも声を荒らげるのも苦手な私は、今日を無事に乗り切ることだけで頭がいっぱいだ。


 休日なのに仕事に行く気分で、美容室までの足取りが重い。
 ただ出社するだけならまだしも、この後の時間を思うだけで気が滅入る。

 お見合いをするホテルの最寄駅で電車を降り、美容室に到着した。
 社が予約してくれていたので社名を告げると、女性の着付け師に出迎えられて、意気揚々と奥の方にある着付け用と思われる和室に通されるなり、ヘアメイクが手際よく施され、襦袢を着たら呼ぶように言われた。


 壁のハンガーに掛けられている、訪問着に目が留まる。
 成人式以来、和服に袖を通す機会がなかったから、こうして見ると着物の美しさに心が奪われた。

 淡いピンク地に描かれた、吉祥文様の松竹梅や菊などが色彩豊かだ。鳳凰文や正倉院文が印象的な帯は、上品な金糸を使っていて煌めいている。


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