生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する

49.生贄姫は推される。

「私、本当はルゥが買ってくれる様な人間じゃない。理想とされる淑女じゃないし、性格は苛烈だし、元婚約者1人御せないくらい無能だし。私がいればアシュレイ公爵を御せるかもとか思ってるかもしれないけど、私にそこまでの価値はないし、父はそんなに甘くない。私を国から出した時点で切り捨てるだけの覚悟を持っている」

 だから、リーリエにアルカナ行きを告げた時、執務室で泣いたのだ。
 あれが父と娘として向き合える最後だった。
 宰相と家臣として向き合ったなら、情の一つすらかけることはできないのだから。

「コレが流出している以上、もう策を巡らす暇もない。私に打てる手は、ただ正直に話してあなたに頭を下げることだけ」

 国家機密を漏らすなんて、本来重罪だ。
 それでも、他に方法がない。

「あなたの興味をひける私でなくて、ごめんなさい。2国間で多くの命がかかってる状況を、私ではどうにもできないのです。だから、助けてください」

 お願いします、とリーリエは深く頭を下げる。
 ルイスと対面し、駆け引きも探り合いもせず、本音を晒すのは初めてのことだった。

「リリ、頭を上げて」

 ルイスの言葉にそっと顔を上げる。
 おかしそうに笑うアメジストの目と不安そうな翡翠色の目が空で交わる。

「10年、君の本音を引きだすのに随分時間を使ったよ」

 ルイスはリーリエの蜂蜜色の髪を優しく撫でる。

「そりゃ、恋愛方面の感情死んでても仕方ないな。フィリクスがドMで間違った方に調教しちゃったと。何それ、俺的に普通に面白いんだけど?」

 ルイスの言っている意味が分からず、何言ってるのこの人くらいの失礼な表情を浮かべるリーリエを見て、ルイスは破顔する。

「やっと頼ってくれた。リリは本当かわいいなぁ」

 うわぁ、絵に描いたような王子が笑ってると、リーリエが見惚れそうになったところで、テオドールがルイスの手を払いのけ、リーリエの肩を掴んで自分の方に寄せる。

「……やらんぞ」

「あーはいはい。そもそも俺何回もリリに袖にされてるから、そんな警戒しなくて大丈夫だって。うちの弟も本当にかわいい」

 リーリエにはさっぱり理解できないやり取りがルイスとテオドールの間で勝手に勃発しており、首を傾げる。
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