生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する
 良ければお話しませんか? とリーリエは薬草園の側のベンチに誘う。
 部屋に戻りそうにないリーリエにため息をついてテオドールは誘いに応じた。
 誘っておいてなんだが、特に話題が思いつかないリーリエに、

「菫、というのは何を指すんだ?」

 とテオドールが尋ねてきた。
 ルイスに依頼した件のことかと思い当たり、リーリエは答える。

「この場合お花は女性を意味します。ヴァイオレット・グラシエール。子爵家の令嬢でございます。まぁ、要するに殿下が寵愛している運命の恋人のことを調べてほしいとお伝えしました」

 恋人、という言葉に反応し、テオドールの眉間に皺が寄る。
 以前リーリエから一方的に婚約破棄されかけたという話を聞いていたが、相手の名前を聞いたことで急に現実味を帯びる。
 リーリエという婚約者がいたはずなのに、と憤りを感じる。

「旦那さま、怒っても顔がいいですね。本当、素晴らしい顔面偏差値の高さ。でも、せっかく素敵なお顔なのに眉間に皺が寄りすぎるのは勿体ないですね」

 ふふっと笑いかけたリーリエは手を延ばして、指先でテオドールの額に触れる。

「旦那さまは、どんな表情でもかっこいいんですけどね? できましたら、笑っていてくださいませ」

 そのほうが幸せになれるそうですよ? とリーリエはいつもと変わらない口調で付け足す。

「ヴァイオレットさんは、私と違ってものすごーく儚い守ってあげたくなる系の可憐な女性で、華奢で、小さくて、思わず抱きしめたくなるような可愛らしさをお持ちで、殿下どころかその周辺の男性たちも骨抜きにされているなかなかの手練れなのですよ。いいなぁ、私もヴァイオレットさん着飾って鑑賞したい」

 目の敵どころかむしろ愛で倒しそうな勢いのリーリエ。

「……タイプなんだな」

 呆れたようにテオドールが聞けば、

「もろドストライクです」

 勿論! っと力強く言い切るリーリエ。

「リーリエ、お前本当にぶれないな」

 テオドールは苦笑するしかない。
 リーリエの博愛主義にも困ったものだ。

「可愛い女の子は国の宝なのですよ? 全力で愛でないでどうします?」

 全世界共通の常識ですよとリーリエに真顔で諭されるテオドールは、しかたなさそうに笑って頷く。

「なら、俺は妻を全力で愛でないといけないな」

 そして意地悪く口角を上げてそう言うとリーリエの髪を梳いて撫で、そこに口づける。

「そ、そういうのは要らないですので! 第一私は”可愛い”に該当しませんっ」

 カァッと赤面しながらもうっ話進まないじゃないですか! と怒るリーリエを見て、

「俺の妻は本当に人の話を聞かないな」

 テオドールは満足そうに微笑んだ。

「うゎぁぁあぁ///旦那さま、やっぱり心臓に悪いので、スマイル半減くらいでお願いしますっ。」

 イケメンの微笑みが目にまぶしいと発狂気味に語るリーリエを、本当に見ていて飽きないなとポンポンと頭をなでながらテオドールは内心で漏らした。
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