生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する

59.生贄姫はネタバレをする。

「ほら、私にばっかり話させてないで、旦那さまも話してよ」

 リーリエはテオドールの空いているぐい呑みに並々注ぐ。

「絡むなよ」

 リーリエから酌を受けながら、いい加減酔ってきてるだろコレとテオドールは苦笑する。

「で、何悩んでるの? 聞くだけ聞いてあげるから」

「聞くだけか」

「聞くだけ。だって、あなたは結局自分で決めて、自分の思う通りにしか動かないじゃない」

 私だって課金して投資して甘やかしてニヤニヤしたいのに、一つも受け取ってくれないと不満そうにリーリエが漏らす。

「まぁ、そんなあなただから、私は安心して技術提供できるんだけどね」

 溢れる声にはテオドールに対しての絶対的な信頼が滲み出ている。
 ならば、それに応えられる自分にならなければなとテオドールはリーリエからの信頼を受け取る。

「……未来が、自分の是としない方で確定している場合、リーリエならどうする?」

 テオドールとしては正直離婚はしたくない。だが、リーリエが画策するのならそれは遠くない未来に起こる確定事項なのだろう。

「はぁぁぁ!? 何、それ? ぜんっぜん意味不明なんだけど?」

 呆れと怒気を混ぜたようなリーリエの声が室内に響く。

「確定した未来? 確定してないから未来なんでしょう。初めから決まってたら、そんなのただの無理ゲーじゃん。何それ、超つまんない」

 リーリエは私が普段どれだけ時間かけてフラグ折りしてると思ってるの? と心底呆れた表情でテオドールを見る。

「別に、旦那さまが確定した未来でいいって言うなら口出しませんけども。是じゃないんでしょ? ならやる事一個しかなくない?」

『破滅ルート回避のために、最期までみっともなく足掻くのですよ』

 ああ、そうだ。
 自分が惚れたリーリエ・アシュレイとはそう言う人物だったとテオドールは苦笑する。

「そうだな。初めから答えは決まっていたな」

 リーリエが話す言葉は難解で、奇天烈で。
 リーリエの行動は令嬢としては規格外で。
 テオドールが惹かれたリーリエ・アシュレイ、その人は苛烈で逞しく強かで、それでいて凛としていて美しい。
 日夜自身の武器を磨き続ける彼女が、簡単に勝たせてくれるわけがないのだが。

「足掻くか。心底骨が折れそうだがな」

 確定した未来などないのなら、テオドールの望む未来のために可能性にかけてみる。
そのために、できる精一杯で今を足掻くのだ。
< 125 / 276 >

この作品をシェア

pagetop