生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する
「黙って聞いていれば、この方は」
言われっぱなしのリーリエを見るに耐えかねたのかゼノが口を開く。
が、口角をあげて涼しい顔で微笑むリーリエが手をあげてゼノの発言を止める。
「良いのですよ、ゼノ様。私、小鳥のさえずりなど気にもなりませんので」
顎に当てられた杖を手で押しのけ、リーリエは不敵に微笑む。
「私は少し驚いてしまっただけなのです」
敵意を向けてくる彼女に、鈴が鳴るような柔らかな声でリーリエは言葉を紡ぐ。
「私、確かフクロウを要請したはずなのだけれど、間違えてヒヨコを発注してしまったのかしら、って」
「このっ、魔術師風情がっ! 私を愚弄するかっ!!」
怒鳴り声にも一切怯まず、リーリエはふっと挑発するように微笑む。
「術を編むしか能がない低魔力者に、戦場で人を殺すしか能のない死神。似合いね。話にならないわ」
吐き捨てるようにそう言った彼女の言葉に、リーリエは目を見開き激しい怒気を放つ。
「撤回、なさい」
リーリエから放たれるのは先程までの柔らかな雰囲気とは違い、ぞっとするほどの威圧。
「魔術師に、文句があるなら私にお言いなさい。でも、私を貶めるために旦那さまを、私が敬愛するテオドール殿下を貶め、愚弄することはこの場においても、ここ以外でも一切許しません。撤回、なさい」
リーリエに睨まれた彼女は一瞬怯むも、
「はっ、冗談じゃないわ」
と好戦的に睨み返す。両者の間で激しく火花が散る。
「ラビ」
それに水を差す様に、銀髪の少女からか細く無機質な声が発せられた。
「魔導師は、魔法で語るの。お口のケンカ、めっ」
ラビと呼ばれた彼女は、少女をしかたなさそうに見る。
「ちっ、分かりましたよ。じゃあ、こいつぶちのめして、さっさと研究棟に戻りましょう」
ただでさえ合同演習前で忙しいのにとぶつぶつ文句を言う。
緑の髪の女性がリーリエの前に出る。
「私、サーシャと申します。申し訳ありません、妃殿下。というわけで我ら時間もありませんので、こちらにおりますラビがお相手いたします。これに勝てないレベルの方を大魔導師様のもとにご案内するわけにはまいりませんので」
ああ、あくまで妃殿下扱いなわけねとリーリエはサーシャを見て肩をすくめる。
あからさまに敵意をむき出しのラビと呼ばれた女性とは違うが、歓迎する気がないのがひしひしと伝わってくる。
「構いませんよ。勝利条件を確認ですが、そちらは私の首を取るなり、戦闘不能に持ち込むなり、好きにしてくれて構わないけれど、そちらが”明らかに負け”と判断できる状況なら私の勝利としていただきたい。また、私が勝った場合にはテオドール殿下への発言の撤回と謝罪を要求します」
「ははっ、寸止めでもする気? 仮想ですら人を殺せない、甘えたが魔導師に何を語るか」
「私はあくまで”魔術師”です。魔術師は、知識で魔法を科学する。殺戮マシーンとは違うのですよ」
「低能が」
「ふふ、高い魔力保持者がそんなに偉い? そんな狭い視野で、あなたが魔術師に一体何を語るのか、見せてくださる?」
ラビが黒い杖を振りかざした瞬間、大量の水がリーリエ頭上にもたらされ、彼女を濡らす。
リーリエはびしょ濡れになった蜂蜜色の髪をかき上げて、
「水魔法の使い手に水をくれるなんて、随分気前がいいのね。さぁ、じゃあ始めましょうか?」
濡れたことなど一切気に留めず、歌うようにそう言った。
言われっぱなしのリーリエを見るに耐えかねたのかゼノが口を開く。
が、口角をあげて涼しい顔で微笑むリーリエが手をあげてゼノの発言を止める。
「良いのですよ、ゼノ様。私、小鳥のさえずりなど気にもなりませんので」
顎に当てられた杖を手で押しのけ、リーリエは不敵に微笑む。
「私は少し驚いてしまっただけなのです」
敵意を向けてくる彼女に、鈴が鳴るような柔らかな声でリーリエは言葉を紡ぐ。
「私、確かフクロウを要請したはずなのだけれど、間違えてヒヨコを発注してしまったのかしら、って」
「このっ、魔術師風情がっ! 私を愚弄するかっ!!」
怒鳴り声にも一切怯まず、リーリエはふっと挑発するように微笑む。
「術を編むしか能がない低魔力者に、戦場で人を殺すしか能のない死神。似合いね。話にならないわ」
吐き捨てるようにそう言った彼女の言葉に、リーリエは目を見開き激しい怒気を放つ。
「撤回、なさい」
リーリエから放たれるのは先程までの柔らかな雰囲気とは違い、ぞっとするほどの威圧。
「魔術師に、文句があるなら私にお言いなさい。でも、私を貶めるために旦那さまを、私が敬愛するテオドール殿下を貶め、愚弄することはこの場においても、ここ以外でも一切許しません。撤回、なさい」
リーリエに睨まれた彼女は一瞬怯むも、
「はっ、冗談じゃないわ」
と好戦的に睨み返す。両者の間で激しく火花が散る。
「ラビ」
それに水を差す様に、銀髪の少女からか細く無機質な声が発せられた。
「魔導師は、魔法で語るの。お口のケンカ、めっ」
ラビと呼ばれた彼女は、少女をしかたなさそうに見る。
「ちっ、分かりましたよ。じゃあ、こいつぶちのめして、さっさと研究棟に戻りましょう」
ただでさえ合同演習前で忙しいのにとぶつぶつ文句を言う。
緑の髪の女性がリーリエの前に出る。
「私、サーシャと申します。申し訳ありません、妃殿下。というわけで我ら時間もありませんので、こちらにおりますラビがお相手いたします。これに勝てないレベルの方を大魔導師様のもとにご案内するわけにはまいりませんので」
ああ、あくまで妃殿下扱いなわけねとリーリエはサーシャを見て肩をすくめる。
あからさまに敵意をむき出しのラビと呼ばれた女性とは違うが、歓迎する気がないのがひしひしと伝わってくる。
「構いませんよ。勝利条件を確認ですが、そちらは私の首を取るなり、戦闘不能に持ち込むなり、好きにしてくれて構わないけれど、そちらが”明らかに負け”と判断できる状況なら私の勝利としていただきたい。また、私が勝った場合にはテオドール殿下への発言の撤回と謝罪を要求します」
「ははっ、寸止めでもする気? 仮想ですら人を殺せない、甘えたが魔導師に何を語るか」
「私はあくまで”魔術師”です。魔術師は、知識で魔法を科学する。殺戮マシーンとは違うのですよ」
「低能が」
「ふふ、高い魔力保持者がそんなに偉い? そんな狭い視野で、あなたが魔術師に一体何を語るのか、見せてくださる?」
ラビが黒い杖を振りかざした瞬間、大量の水がリーリエ頭上にもたらされ、彼女を濡らす。
リーリエはびしょ濡れになった蜂蜜色の髪をかき上げて、
「水魔法の使い手に水をくれるなんて、随分気前がいいのね。さぁ、じゃあ始めましょうか?」
濡れたことなど一切気に留めず、歌うようにそう言った。