生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する

66.生贄姫は条件を課される。

「……ホント、そっくり」

 ぽそっと囁くようにそう言ったフィオナは、リーリエの頭をポンポンと叩く。

『魔導師だとか、魔術師だとか、どうでもよくない? ただ信じた”未来”について、語り合えたら、うまい酒が飲めるってもんでしょ?』

 フィオナの脳裏にかつて友人だった”魔術師”の姿が思い浮かぶ。
 彼女も今のリーリエと同じ魔術師の衣装を着て、魔導師であるフィオナに豪胆に笑っていた。

「リリ、やらなきゃいけないこと、理解できる子」

 彼女もそうだった。
 カテゴリーになど興味はなく、相手の知識と技量に敬意を示せる圧倒的強者。

『あたしの弟子は、カテゴリーなんか軽く飛び超えるよ?』

 そう言って自慢げに弟子について話した金髪碧眼の彼女はもうここにも隣国にもいないけれど。

「だいじょーぶ。フィーは、可愛い女の子の味方」

『いつかカテゴリーも国境も関係なく、ただ同じ魔法使いとして、笑い合えたら最高じゃない?』

 彼女の夢見た”いつか”はまだきっと先だけど。

『あなたの撒いた種は、ちゃんと育っているみたい』

 フィオナは心の中でそう言って、リーリエに顔をあげるように促した。

「フィオナ様、まさか本当に見せるおつもりでは!?」

 サーシャが諫めるようにフィオナに抗議するが、フィオナはサーシャの抗議を遮ってリーリエに資料を提示した。

「条件。達成出来たら、見せてもいい」

「条件、ですか?」

 顔をあげたリーリエは資料に目を落とす。

「今度の合同演習。”夢魔討伐”の概要。うちに課せられた任務」

 フィオナはミルクティを口にし、お菓子を頬張る。

「リリ、夢魔狩りで大事、何?」

「精神攻撃への対策でしょうか。”幻聴””幻覚”を主とした悪夢。引き込まれたらその間にやられますね」

「正解。今回確認されている個体数は12体。一気に叩く」

 フィオナはこくりとうなずいて、解説する。
 夢魔は群れでいる場合、情報を共有する。
 一体狩られたら残りは離散してしまう可能性が高いので、一気に仕留める必要がある。

「でも、今回は亜種がいる……かも?」

「亜種、ですか?」

 リーリエはテオドールの方に視線をやる。

「まぁ群れが大きすぎるな。通常、6体以下。縄張り意識の高い夢魔が同時に同じ個所に群れている可能性は低い。それに子どもが攫われてる。夢魔が咥えて逃げる目撃情報も出ている」

 普通より多くの個体を従え、通常ではありえない人を攫う行動が見られる。
 このことから夢魔の”亜種”がいる可能性が浮上している。
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