生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する
「リーリエ様。今夜もお美しいですね。みんなでお待ちしておりました」

 と、ノアが恭しく礼をして食堂のドアを開ける。
 中には沢山の屋敷で働く使用人達がいて、一同揃ってリーリエに向かって礼をする。

「こんな時間に、みんな……どうして」

「これでも随分厳選したんですよ。立候補者が多すぎて、大変でした」

 ノアが苦笑気味にそう告げ、リーリエを席へと促す。

「リーリエさま、コチラです」

 猫耳をピコピコさせ、ご機嫌にしっぽを振っている侍女見習いのティナが椅子をひく。

「ティナ、こんな夜更けに」

「ティナ、ジャンケン勝ったの! 子ども枠」

 ブイっと得意げにピースをして見せるティナが可愛くてリーリエは思わず抱きしめて頭を思いっきり撫でる。
 ティナは本物の猫のように喉をゴロゴロ鳴らし、

「リーリエさま、やっと会えた。ティナ、リーリエさま大好きー」

 と言って笑った。

「リーリエ様うちの子ども達には特に甘いですから。逃げられないでしょう? ちゃんと食事召し上がってくださいね」

「本日のメニューは薬膳料理なの〜。ティナ達もお手伝いしたんだよ」

 ほぼ3日食事を摂っていなかったリーリエのために、消化しやすく身体に優しいメニューになっており、みんなの気遣いを感じる。
 正直食欲はなかったが、ここまでされては食べないわけにはいかないなとリーリエは手を合わせて食べ始める。

「うん、すごく美味しい」

「料理長に伝えておきます。何せいつも感想言ってくれるリーリエ様が食事を摂られないものだから、張り合いがないって文句を言っておりましたので」

 引き篭もっていたこの3日色んな人に心配をかけていたのだとリーリエは知る。

「せっかく作ってくれていたのに、ここ3日手付かずで下げさせてごめんなさいと伝えておいて」

「ええ、必ず」

 ノアは笑って了承した。

 料理は少量ずつ出されていたので、なんとか完食できたリーリエはみんなに改めて礼を言う。

「心配かけてごめんなさい。みんなありがとう」

 リーリエは時計に目をやる。
 日付は変わり、すでに1時を回っていた。
 十分休憩も取ったし、まだいけると気合いを入れたところで、テオドールに手を取られる。

「じゃ、部屋に戻るか」

 テオドールの一言でその場は解散となり、リーリエは食堂を後にした。
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