生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する
「きゃー」

「ステラリア様!!」

 会場が騒然となり、ステラリアが倒れたことが一気に広がる。

「ステラっ!! 貴様っ! 私の娘に何をしたーー!!」

 人混みを掻き分け走ってきた中年の男性には見覚えがあった。チェイス・デメテル・リオール侯爵、つまりステラリアの父親だ。鬼のような形相でテオドールからステラリアを奪うと高圧的な態度でテオドールを睨みつける。

「俺は何もしていない。それより早く宮廷魔術医を呼んだらどうだ」

 リオール侯爵の不遜な態度を気に留めることもなくテオドールは事実を淡々と述べる。

「貴様に指図されるずされる謂れはない。ステラはお前のような死神が触れていい娘ではない。お前が近づくだけで死が寄る。貴様、娘に何かあったらただでは置かないからな」

 怒鳴り散らすリオール侯爵をリーリエは冷めた目で見ながら周りを観察する。
 テオドールは仮にもこの国の王子だ。ステラリアは確かテオドールのはとこにあたる。序列から言ってもテオドールに対してこのような物言いが許されていいはずがない。

「ああ、ステラっ! なんてことっ!? 邪気にあてられたの? お願い目を開けて!!」

 騒ぎを聞きつけ宮廷魔術医とともに駆け付けたステラリアの母親であるリオール侯爵夫人はステラリアに近づき、彼女の名を呼びながら力強く揺する。

「何をしている。ステラリアを殺すつもりか!?」

 急に意識を失い倒れた相手を力の限り揺さぶってはいけない。当たり前の注意と共にリオール侯爵夫人の肩に手をかけたテオドール。
 だが、リオール侯爵夫人は注意を聞き入れるどころか蒼白になり涙を流しながらその手を払いのけ、

「この疫病神っ! 王家主催でなければ誰がこんな夜会など」

 と激しい非難の目を向けた。
 明らかな言い掛かりだというのに、誰も彼も非難の声を上げるものはおらず、まるでリオール侯爵夫妻の言い分が正しいと言わんばかりだ。

「貴様っ、妻と娘から離れろ!! 何の恨みがあって」

 殴りかかってきたリオール侯爵をテオドールはひらりとかわし、リオール侯爵は顔面から床にダイブした。

「あなたっ! イヤーー」

 悶え苦しむリオール侯爵と泣き叫ぶ夫人。
 そんな2人に構う事なくテオドールは、宮廷魔術医に声をかける。

「ステラリアの状態は?」

「た、直ちに私が回復魔法をかけますので、少し距離をお取りください」

 テオドールに声をかけられたことで緊張したのか、たどたどしく答えた宮廷魔術医が杖をかざし詠唱を始める。

「”リカバリー”」

 長い詠唱の後に宮廷魔術医が高らかに声を上げ、体力回復魔法をかける。
 ステラリアの体は光に包まれるが、光が消えても彼女が目を覚ますことはなかった。
 ステラリアに変化が見られないことで宮廷魔術医は焦りながら毒除去、魔力回復など、思いつく限り重ね掛けしていく。
 だが、ステラリアの容体は回復するどころかますます血の気を失っていった。
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