生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する
「これは、一体なんの御伽噺なの?」

 リーリエが語った物語を聞き終えて、ルイスは尋ねる。

「語られなかった方の歴史、かしら?」

 トンっとリーリエは自身の師の研究記録を見せる。

「ずっと、不思議だったのです。筆頭魔術師だった師匠が失踪した理由。師匠も大賢者の魔法陣の無効化並びにギフティの研究をしていたようですね」

「ギフティ? って、さっきの?」

「そう、特殊な条件下で生まれ、珍しい容姿と引き換えにヒトの理や常識枠に当てはまらない、そのヒトの適正のある分野において極めて優れた"才能"を有している人たちの総称。ちなみに私は現在進行形で研究しています。対象はヘレナート様じゃないのですけれど」

 珍しい容姿に反応し、ルイスはテオドールの方を見て、

「なるほど、最推しなわけね」

 納得したようにルイスは頷いた。

「これは、御伽噺なんかじゃなくて現在進行形の物語、なのだと思うのですよ。史実や歴史なんて、公開されるそのほとんどがその時の覇者の良いように整えられているものでしょう? そして隠された事実に埋もれた"夢"あるいは"願い"を叶えようとしているのですよ。大賢者様とお姫様がね」

 この物語の仮説を立てたとき、リーリエは前世の記憶の蘇った出来事から今日までが、全て連なったひとつの物語の中にあるのだと知った。

「似ている、と思いませんか? 今のこの状況が」

 テオドールが眉根を寄せる。

「そのルカって女と生贄姫が、か?」

 リーリエはゆっくり頷いて肯定する。

「ウルーリカは、その存在を消されてはいましたが、アシュレイ家の歴史の中に確かに存在していたようです」

 彼女はリーリエと同じ魔力保有量が極めて少ない劣等種。そして、人質として出された先のアルカナで処刑されている。

「彼は、私の事をルカの記憶の入れ物だと言った。その人を構成するものが記憶で、定着させるためには入れ物との相性があるのだ、と」

 代々アシュレイ公爵家は、魔術師の血筋としてその高い魔力を保持するために政略結婚を行ってきた。その歴史において、劣等種と呼ばれるほど魔力保有量の少ない人間は稀だ。
 その稀な人間が、今このアルカナにウルーリカと同じく断頭台に近い人質としているのは偶然とは呼べないだろう。

「6歳のあの日、暗殺者を返り討ちにしてからずっと繰り返し見続ける悪夢があるの」

 きっとそのとき、精神を崩壊させるための悪夢を植え付ける"魔法"にかかったのだろう。
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