生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する

102.生贄姫は鑑賞される。

 時は事件の3日前に遡る。
 屋敷のリーリエの執務室で、人払いをし、盗聴防止の魔道具を展開した上で、彼女は楽しそうに話し始めた。

「ハイ、じゃあ早速ですが、リベンジマッチという名のヘレナート様攻略戦の作戦会議を始めたいと思います」

 作戦会議と言っても執務室にいるのはリーリエとテオドールの2人だけなのだが、何事も形に拘るをモットーにしているリーリエがわざわざどこかから持ってきたらしいホワイトボードを設置し、部屋の机や椅子その他物品の配置も若干会議室っぽさを出している。

「ああ、じゃあ要点だけまとめて話してくれ」

 リーリエの過剰演出にいちいち突っ込まないぞと言わんばかりにテオドールが淡々と進行を促す。

「旦那さま! 冷静! 冷静過ぎますっ!! 衣装に対してのツッコミはないのですか!? これじゃあ私、めっちゃ滑ったただの痛い子じゃありませんか!!」

 せっかく準備したのに、もうっとリーリエは不満いっぱいにテオドールを責める。

「……俺にどんな反応求めてるんだ。あと部外者への制服貸与は服務規定違反だって、ロリババアに言っとけ」

 ため息混じりにテオドールはリーリエにそう告げる。
 本日のリーリエの衣装は騎士団の制服。ただし第一騎士団の紋章が入った制服で、フィオナの趣味で可愛くアレンジされており、ロングブーツがよく映える丈の長さのキュロットに、長めの上着を肩にかけ羽織り、オプションで帽子も載せていた。

「一回着てみたかったのですよ。悪用しないので、お許しくださいって、旦那さま何してるんですか!?」

 可愛いくないですか? と制服を見せてくるリーリエに、制服に可愛いさ求めるなよとため息をついたテオドールは、リーリエの腕を引いて自分の方に引き寄せる。

「前から気になってたんだが、かなり高い防御率の魔法組み込んでるな。これはどういう原理で組み込まれているんだ?」

 魔導師たちが着こなす制服をじっくり見る機会はないので、せっかくなら前から気になっていた制服から感じ取れる魔法の痕跡でも見ようかとリーリエが着用している状態のまま観察する。

「本体の背中側の布地に直に魔術式をって、何脱がせてるんですか!?」

「ああ、コレな。確かに他の攻撃魔法使ってもこれなら邪魔にならないかもな。うちの制服でも防御魔法取り入れられないか検討するか」

 仕事のスイッチが入ったらしいテオドールは割と真剣に制服にかけられている魔術式を読み解いているが、上着を脱がされ、背中を見られるなど絵面としてはセクハラ以外の何物でもない。
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