生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する

11.生贄姫は頭を悩ませる。

 穏やかな昼下がり、リーリエは難しい顔で机の上に広がる山積みの手紙を眺めていた。

「リーリエ様、そのようにお美しい顔を歪めては旦那様みたいに眉間の皺が取れなくなってしまいますよ?」

 軽いノックのあと部屋に入ってきたアンナは苦笑しながらリーリエに話しかける。

「それは問題だわ。旦那さまみたいに美形なら許されるけれど、私の眉間に皺が刻まれたら印象がさらにキツくなってしまうわね」

「そんなことはありません。旦那様とは違いリーリエ様は全身から優しさと慈愛に満ちておりますし、大変美しいお顔立ちですよ」

 アンナに真剣にそう言われ、リーリエは苦笑するしかない。エルフは美人で若々しい人が多いが、ハーフエルフであるアンナもそれは変わらない。
 この見た目で四十を遠に超えているのだから羨ましいの一言に尽きる。

「今日はアンナがお茶に付き合ってくれるのね。侍女頭を独占してしまってみんなに怒られないかしら?」

「まさか。口うるさいのが居なくてみんな伸び伸び仕事をしておりますよ。それにリーリエ様とのお茶は志願者が多くて高倍率なのです。やっと順番が回ってきたのですから、どうぞ今日はお相手させてくださいませ」

 手早くティータイムの準備を終えたアンナはリーリエの向かいの席につく。
 こってり甘いミルクティーとそれに合う少しビターなプチフール。
 連日ため息をついているリーリエのために用意してくれたのだとありがたい気持ちでいっぱいになる。

「美味しい。さすがアンナね。いつもありがとう」

「勿体ないお言葉です」

 アンナは綺麗な所作で微笑み、紅茶に口をつけた。
< 24 / 276 >

この作品をシェア

pagetop