生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する

14.生贄姫は欲望に忠実になる。

「隊長!誰っすかそのかわいい子」

 茶髪で細身の騎士が声をかけてくる。テオドール相手に気安い口調で話しかけるその顔に見覚えがあった。
 とは言えリーリエが一方的に知っているだけなのだが。
 人懐っこい笑顔を浮かべ近づいてくるので、思わずテオドールの背中に隠れてしまう。

「ははぁーん、入隊希望では無さそうだし、新婚早々女の子連れ回して堂々と浮気なんて隊長だ・い・た」

 ドゴッ。
 "ん"といい終わる前に茶髪の騎士は地面と正面衝突をする。

「ちょっ、隊長っ!! 痛っ」

 かなりの音がしたにも関わらず直ぐ起き上がり顔を上げた騎士の頭を鷲掴みにし睨みながら力を加えていくテオドール。

「隊長っ! 冗談! 冗談だからっ!! マジで痛いっす。骨ミシミシ言ってるからっ!!」

「朝からくだらない冗談が言える程身体が余っているならお前の鍛錬メニュー倍だ。あと滞っていた業務も追加」

「ちょっ、俺帰れなくなる! マジで、隊長みたいに10連勤とか官庁に缶詰とかマジで無理っす。すみませんでしたーー」

 この状態で普通に会話できるってすごいなぁと感心しつつ、これ以上は不味いのではと感じたリーリエはそっとテオドールの袖を引っ張る。
 一応の謝罪に満足したのかふんっと鼻を鳴らしたテオドールは仕方なさそうに手を離した。

「うぅ、隊長の愛が重いっ」

「そういえば予算会議の書類がまだできてなかったな」

「俺書類仕事無理っ、マジで無理っす。魔獣狩りに1人クエスト行かされた方がマシ」

「なら無駄口叩くな」

 痛いっと頭をさすりながら気の抜けた返事をした茶髪の騎士の頭には再度鉄槌がくだった。
 そんな2人のやりとりをリーリエは一コマ足りたとも見逃すまいとガン見。口元を押さえていないとニヤニヤが止まらない。

『私の鉄板デッキの2大主力が戯れてる。尊いっ』

 と本日の目的を忘れてすっかり満たされていた。
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