生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する
 目の前で起こった事象が理解できず、テオドールやゼノだけでなく隊員もリーリエを凝視する。

「リンちゃんって、回復魔法が使えたの?」

 ヒールポーションと言われ渡された液体の入った小瓶を眺めながら、ゼノは驚いたようにリーリエに問いかける。

「いいえ、使えませんよ?」

 だがリーリエはあっさり否定し、バックから追加でヒールポーションを取り出す。

「コチラ、カナン王国アシュレイ領で開発されました新商品の自然治癒力増強効果が付与された水薬、ヒールポーションとなっております。現在アルカナ王国では未発売ですが、第二騎士団で実験データを取らせて頂ければ、試作時は無料、販売後は優先販売権と定価の10%オフで商品提供したい、とリーリエ様より御伝言を賜っております」

 是非前向きにご検討くださいと笑顔で付け加えたリーリエはクルリと一周回って完治をアピールし、綺麗なお辞儀でプレゼンを締めくくった。

「つまりコレ、リーリエ妃がお作りになられたってこと?」

「正確に言えば商品開発をしたのがリーリエ妃で、生成したのはアルテミス家使用人の皆さまですね」

 私もちょこっと手伝いましたとリーリエは嬉しそうに付け足す。
 アルテミス家と言う単語に反応した隊員の視線が一気にテオドールに集まる。

「さっすが隊長! うちの回復要員いない問題解決できそうじゃないですか!!」

「本当にリーリエ妃は聖女だったんですね!!」

「いつから導入できるんですか!? 俺も欲しいです」

 そう言って隊員達は盛り上がるが、テオドール自身も今聞いたばかりなのでどう対応すべきか言葉に詰まる。
 リーリエの方に視線をやるが微笑み返すだけなので、事態を収拾する気がないらしいと悟る。

「この件は持ち帰ってリーリエに確認する。他言無用だ」

 ため息混じりにその場にいた全員に釘を刺して、ゼノからヒールポーションを取り上げる。

「あっ、それ俺が貰ったのに」

「大した怪我はしてないだろうが。これは簡単に使って良いものじゃない」

 なお抗議するゼノを黙らせ、リーリエに突き返す。

「さすが旦那さま。素晴らしい慧眼でございます」

 ヒールポーションを安易に使わず、雰囲気に流されず状況を判断したテオドールに満足気に頷いたリーリエは受け取ったヒールポーションを素直にカバンにしまった。

「え、コレなんか不味いの?」

「体に害はありませんよ。ただし、万能薬では無いのです。詳細はきっと明日以降にでも旦那さまからお伝えされるでしょうからお待ちくださいませ」

 ゼノに笑顔でそう告げたリーリエはテオドールに向き直り、

「では使用人一同旦那さまのお帰りを心よりお待ちしておりますので、本日はどうぞ可能な限りお早めにお戻りくださいませ」

 "話がしたいならちゃんと屋敷に戻ってね"とテオドールに約束を取り付けた。
< 40 / 276 >

この作品をシェア

pagetop