生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する
 完全に覚醒したリーリエは状況を確認する。
 見覚えのない家具配置と人気のなさからここがテオドールの別邸で、部屋の広さからゲストルームだと推察する。
 窓の外から見える景色が真っ暗なので、今は夜なのだろう。

「リーリエ、前々から言おうと思っていたのだが、お前は本当に人の話を聞かないな」

 椅子に腰かけ頬杖をついたテオドールは、テオドールからかなり離れたドア付近の床に自主的に正座しているリーリエを見下ろしながら呆れたようにそう言った。

「いえ、旦那さまのお側に行くなど恐れ多い。それに反省の意味も込めて、こちらでお話しをさせて頂きますわ」

 まだ引かない羞恥の熱に耳を赤く染めたリーリエが、じとっと睨む様な視線を送りながらテオドールにそう言う。
 その顔にははっきり読み取れるほど、警戒心の3文字が浮かび上がっていた。
 そんなリーリエを見てそっぽを向いたテオドールは肩を振るわせて笑う。

「旦那さま、妻を弄んで楽しいですか!?」

「そこまで効くとは思わなかったが。そうだな、ここ最近で一番面白い反応だった」

 テオドールはゆっくり立ち上がり、正座をしているリーリエの側に跪くと、

「選択肢をやろう。話し合いをするにあたって、自主的に椅子に座るのと俺に強制的に座らされるのと、どっちがいい?」

 意地悪気に口角をあげてそう尋ねる。
 リーリエは口元を押さえて目を逸らし、

「はわぁぁっ、ドSモードの旦那さまを目の前で見られるなんて。色っぽい動作、音声付きで神仕様。何より、意地悪っぽく笑っても顔がいい!」

 ぐっと拳を握りしめてファンサービスありがとうございますと、声に出して叫ぶリーリエ。

「……よし、通常運転だな」

 リーリエの扱いがだいぶわかってきたテオドールは、そう言って床に座っていたリーリエを抱き抱える。

「ちょ、旦那さまっ! それはいりませんっ!! ファンサしすぎ!!」

「正常に戻ってなによりだ」

 リーリエの訴えをまるっと無視して強制的にソファに座らせた。

「旦那さまは私をなんだと思っているのですか!?」

「とりあえず挙動不審な発言が見られる間は正常な状態だと思っている」

「酷いこと言ってる時も顔がいい。そして自分の語彙力のなさが憎い。あぁ、できることなら壁になりたい」

 はぁっと、大きなため息をついて両手で顔を覆ったリーリエは、この場に置いて主導権を握る事は難しいなと諦めた。
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