Miseria ~幸せな悲劇~
「ちっ、きもっ!」
メイはそんな男の手をまるでゴミでもついていたかのように祐希の肩から払いのけた。
「あんなの無視無視、行こ、祐希」
メイは祐希を連れ出そうと祐希の手をひいた。
「うん…」
祐希はメイを追って歩き出した。
「待てよ祐希ちゃん、もっとお話しようぜ!」
男は立ち去ろうとする祐希の腕をつかんだ。
「痛っ…!」
男の手が祐希のか細い腕に食い込んだ。
どうしても男は祐希を諦めきれない様子だった。
「なぁ、いいだろ? 高校は違うけど、俺さ、祐希ちゃんが他の男に貫通(処女喪失)されるのやっぱ耐えらんないんだよね……分かるだろ? 俺の気持ち……」
男は祐希に抱きつくように肩を引き寄せた。
男の頭の中では、きらびやかな青春映画のワンシーンでも浮かんでいるのだろうか。
「やっ、やだ、やだって…」
ただ現実は映画のようには行かず、祐希の表情からは彼を拒む感情がにじみ出ていた。
男は祐希のそんな分かりやすい嫌悪感に気がつかないようで、祐希の唇に無理矢理キスを迫るように顔を近づけた。
祐希はまるで下水道から這い出してきた豚を引き離すように抵抗する。
「……お願いだから、一回だけ俺と付き合ってくれよ。そうすれば……楽しい初めてとか、全部、俺が教えてやるからさ、ねっ? 祐希ちゃん!?」
校門の前ということもあってか、数人の凪瀬校の生徒が足を止めて傍観していた。
ただ、見ているというだけで、誰も先生を呼ぶなり助けに入る気配はなかった。
相手が男子となるとやはり反撃が怖いのであろうか。
「メイ……!」
祐希は助けを求めるようにメイに目配せした。
事情も知らないし、しばらく様子をうかがってみるか。
と思っていたメイだが、これ以上は祐希の身も危ない。
「はぁ、しょうがないか……」
メイは男の手をつかむと力ずくで祐希から引き離した。
「うわっ…!」
力で勝るはずの男が、メイに押され思わず声を上げてよろめいた。
その隙に祐希は小動物が巣に逃げ帰るようにメイの背中に隠れた。
「なんだよ、てめぇ! しゃしゃってくんじゃねえよ!!」
突然のメイの乱入に機嫌を損ねたのか、男はドスのきいた声でメイに言った。
「はっ? あんたそれ、私に向かって言ってんの?」
メイは腕を組んだまま堂々とした態度で男に言ってのけた。
普通の女子高生であれば、同じ状況で男子に喧嘩を売るような真似はしないだろう。
しかし、メイは違っていた。
彼女は凪瀬校の誰よりも正義心が強く、そして、誰よりも喧嘩が強かった。
もちろん、その喧嘩の強さとは女子に限った話ではない。
メイ自身、ただの男子高校生に喧嘩で負けるとは思っていなかった。
しかし、その時、