極悪プリンスの恋愛事情
「放送も入ってないしあと少しくらい───」
と、言いかけたはいいものの。
『間もなく後夜祭が始まります。参加を希望する生徒は校庭に集まってください』
「あ、放送だ」
タイミングが良いのか悪いのか。
ちょうど校内放送が流れてしまい、皐月を引き止める術をあっさりと奪われてしまった。
案の定皐月はすぐに立ち上がり、掴んでいたはずの右手は何も残らずに空気を掴む。
「じゃあね、静香。また後で」
「そ、そんなぁ………」
───パタリ
ドアを閉める音がこんなにも冷たく響くのは、私以外誰もいないからかもしれない。
さっきまで数人は残っていたのに。
「みんな行くの早いよ……」
ぽつりと溢れた呟きは、響くことなく溶けて消えた。