お見合い結婚狂騒曲
葛城圭介がフッと目尻を下げ、私を見る。
初めて見る優しい眼差だった。

「そして、もっと君のことを知りたいと思っている。だから、君がイイ」

君がイイ……なんて嬉しい言葉だろう。電話越しに聞いたプロポーズよりも何百倍も嬉しい。

「初めてです。男性にそんなことを言われたのは」
「それは光栄だ」

「ああ、それから」と葛城圭介がポケットから小さな箱を取り出し、跳ね上げ式の蓋を開ける。

「これは我が家に代々伝わる指輪だ。これを貰ってくれ」

これって、ダイヤ? それはそれは見事な指輪が、ベルベットの白い台座に鎮座していた。

「僕からの指輪は、改めて一緒に見に行こう」
「見に行こうって……要りませんよ」

キッパリ断る。

「これだけでも、私、今、クラクラと目眩がするんですから」

本当、こんなのを指に嵌めたら、強盗に盗られないか、気になってしょうがない。

「まぁ、その話は改めてしよう。とにかく、左手を出して」

きっと、この着物でこれを嵌めた姿をお祖父様は楽しみに……ん? イヤ、一番楽しみにしているのは恵方巻きか。

渋々、左手を出す。
薬指に指輪が嵌められると、なぜかピッタリだった。
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