お見合い結婚狂騒曲
「もしもし」
〈赤尾真央さんの携帯ですか?〉

女性の声だ。

〈初めまして、私、小泉瑠璃と申します〉

エッ、小泉……瑠璃? なぜ彼女から? 否、それより、どうして番号を知っているのだろう? 次々と浮かぶクエスチョンマークが頭中を飛び回る。

〈私、貴女とお話ししたいの。お時間を作って下さい〉

お願いではない。これは命令だ。有無も言わさぬ威圧感。本当、女王様だ。でも……。

「私にはお話しすることはありません」

十六歳に負けるものかと抵抗を試みる。

〈あら、なら、そちらに伺ってもよろしいのね〉

ーーいや、それは駄目だろう。南ちゃんも大久保さんもスキャンダラスな話が大好物だ。彼女たちに喜びを与えてはいけない。これ以上、平和な日常を乱されたくない!

「分かりました。確実に仕事が終わるのは六時です」
〈では、六時にそちらに参ります。ごきげんよう〉

掛かってくるのも突然だが、切れるのも突然だ。
実に横暴なお嬢様だ。

しかし、電話越しだというのに十六歳とは思えない会話術。戦わずして負けた感半端ない。

公香……あれには勝てないわ、と心の中で詫びながら、エレベーターホールにある長椅子に座り込む。

さっきまでの食欲が一気に失せた。
ああ、もう! せめて食後に電話をくれたら……サーモンステーキ、食べたかったなぁ、と溜息を一つ零す。



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