お見合い結婚狂騒曲
店に入った途端、一斉に視線がこちらを見る。しかし、見られている感はない。注がれている視線は全て彼女に、だからだ。

「いらっしゃいませ」

顔馴染みのボーイ君がいそいそと声を掛ける。

「どうぞこちらへ」

この店でアテンドを受けるのは、今、この時が初めてだった。彼も美人に弱いとみえる。コンニャロと思ったが、黙ってついて行く。

案内されたのは、『見合い屋』のメンバーがよく密談に使う、観葉植物に仕切られた店の最奥。

「こちらのお席で、およ、よろしいでしょうか?」

咬んでいる。普段使い慣れない言葉を言うからだ。フンと鼻で笑ってやる。
ーー嗚呼、大概、私も嫌な女だ。

「結構よ。私は紅茶。ストレートでいいわ。真央さんは?」

腰を下ろしながら瑠璃嬢が訊ねる。

「私はコーヒー」
「かしこまりました」

深々とお辞儀をし、ボーイ君が下がる。

「貴女も座ったら」

アッ、そうだった、と慌てて腰を下ろす。
真正面に人形のような美少女って……いかん、眩しさで目が潰れそうだ。

「改めまして、小泉瑠璃です」
「あっ、赤尾真央です」

完璧に食われている。

「圭介さんとお付き合いされているそうね」
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