お見合い結婚狂騒曲
「瑠璃」と彼女の横に座ったのは花香さんだった。

「ごめんなさいね、真央ちゃん。圭介さん、彼女のことは任せて。あっ、支払いは済んでいるから」

綺麗なウインクを残し、花香さんは泣きじゃくる瑠璃嬢を伴い店を出て行く。その後ろ姿を見送っていると、葛城圭介が私の手を握る。

エッとその手を見つめていたら、「周り」と小声で彼が言う。そう言えば、と辺りを見回すと、注目の的だった。

ーー嗚呼、私の平和な日常が……。
ガクリと肩を落とす私の手を握ったまま、葛城圭介が立ち上がる。

「行くぞ」

視線を上げると、一歩先に行く彼の襟元がグッショリ濡れている。

「葛城圭介さん、ダメです。髪も服も、そんな濡れたまま外に出たら風邪を引きます。私の部屋に来て下さい。とにかく乾かしましょう」

十二月の寒空の下、これでは幾ら何でもだ。

「イヤ」と遠慮するような素振りを見せる葛城圭介を、今度は私が引っ張りエレベーターホールに向かう。

「おい、君の部屋って!」
「緊急事態です。ご招待します」

ブツブツと何か言っているが、放置だ。
風邪でも引かれて、私の責任にされたら堪らない。
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