お見合い結婚狂騒曲
公香の指示通り、ビルの前で待っていると真斗さんのBMWがスーッと脇に停まる。

「真央ちゃん、乗って」

普段の真斗さんなら、どんな女性でも王子のようにエストートするのに……今日は見る影もない。

だから、「失礼します」と自分で助手席のドアを開け、乗り込む。

「公香から聞いたよね」
「はい、事故ですって? どんな具合なんですか?」

今、私はとても冷静だ。ドクドクと心臓の鼓動は未だに速いが、脳細胞は真斗さんを待つ間に冷え切ってしまった。

「分からない。アイツの秘書が言うには、葛城家が懇意にしている病院に運ばれたとだけだ。今日デートだったんだろ」

ああ、それで私に連絡があったのか、と理解する。

「病院はどちらですか?」
「因幡総合病院」

名医が勢揃いする私立病院だ。なら、なおさら安心だ……と思ったのは束の間だった。

「私、今後一生、真斗さんの車には乗りませんから!」

病院には、彼の車でおおよそ二十分程で着いた。本来ならその倍はかかる。

「圭介が気になってマッハで来たんだから、そんなこと言わないでよ」

イヤ、アレはきっと普段からだ。ハンドルを握ると人が変わる人がいる、というが、彼もその一人だろう。あれじゃあ、命がいくつあっても足りない。
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